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札幌高等裁判所 昭和30年(う)556号 判決

被告人

新井または朴こと

須田順子

事実

被告人は法定の除外事由がないにもかかわらず昭和三〇年二月五日札幌市豊平一条一丁目の当時の被告人居宅茶の間(六畳間)において販売若しくは授与の目的で保健上危険なものにされる虞がある非衛生的条件のもとで取扱いをされた塩酸エフエドリン、塩酸プロカイン、カフエインおよび食塩含有の不良医薬品(白色結晶性粉末)約八〇瓦(原審昭和三〇年領第八〇号の一)を本箱中に隠匿貯蔵していたものである。

職権で調査をするに、原判決が罪となるべき事実として認定するところは、本件公訴事実のとおり被告人が昭和三〇年二月五日午前一一時過頃札幌市豊平一条一丁目の当時の居宅においてフエニルメチルアミノプロパン(原末約八〇瓦)を所持していたというのでありその挙示する証拠によれば、被告人が右日時場所において本箱の中に白色結晶性粉末約八〇瓦(原審昭和三〇年領第八〇号の一)を隠匿貯蔵して所持していたことは優に認め得られる。しかし右粉末が果して覚せい剤であるか否については前掲証拠中には新保四十男作成の鑑定書以外にこれを証するに足る証拠なく、右鑑定書によればなるほど右粉末が原判示のような覚せい剤であることが一応うかがえなくもないが、右鑑定書は当審で取調べた鑑定人秋谷七郎作成の鑑定書に対比してにわかに措信し難く、しかも後の鑑定書に従えばかえつて右粉末は少量の塩酸エフエドリンおよび塩酸プロカインおよび食塩の混合物なる医薬品であつて、原判示にいうような覚せい剤でないことはもとより覚せい剤取締法所定のその他の覚せい剤にも該当しないことが明らかであるから、被告人の右粉末所持の事実は薬事法にいう不良医薬品を貯蔵したとの疑いはあつても、本件公訴にかかる覚せい剤の所持としての証明は不十分であるというほかはない。されば原判決がその挙示する証拠によつて本件公訴事実どおりの事実を認定したのは、判決に影響をおよぼすことが明らかな誤認というべく、到底破棄を免れない。

よつて、弁護人の控訴趣意(量刑不当)に対する判断は省略し、刑事訴訟法第三九七条第二項、第三八二条により原判決を破棄するが、検察官は当審において本件公訴事実に対し予備的訴因として薬事法にいう不良医薬品貯蔵の事実を追加したので、該事実に対する審理をとげ、且つ原審ならびに当審において取調べた証拠により直ちに判決ができるものと認め同法第四〇〇条但書に従い更につぎのとおり判決する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 中村義正 裁判官 羽生田利朝)

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